木のそばで 後編
投稿:2014/03/01
(後編)
生き物が最後に目を開けたのは、また春がやってきた頃でした。
子供たちのたくさんはしゃいでいる声が聞こえたような気がしたからです。

(子供たちが来ているのかな…?)
久しぶりに起き上ってみると、もう、生き物の体は透けていました。
(もうすぐ、消えてしまうんだ)
よく目を凝らしてみると、目の前にはたくさんの子供たちがいました。

どうやら、旅芸人のおじさんが大道芸を披露しているようでした。
おじさんは、ポンポンっと器用にボールを投げたり、

大きなクラブを軽々と飛ばしたり、

ローラーの上で危なっかしそうにバランスをとって水晶をあやつったり、

それは不思議で楽しくて、子供たちはとても楽しそうでした。
生き物もこんなものは見たことありませんでした。
久しぶりに、子供たちの笑い声をたくさん聞きました。

(うれしいな。)
おじさんの大道芸も終わって、子供たちが帰って行った後。
その旅芸人のおじさんは、心配そうな顔をして、生き物のそばへやってきました。

おじさんには、その不思議な生き物が見えていたのです。
「大丈夫?今にも消えそうだ…」
(この人は、優しいひとなんだろうなぁ)
生き物はだんだん眠くなってきて、ウトウトしてきました。
(でも、最後に楽しいものが見れて良かった。)
そう思った瞬間、生き物の体は少しずつ消えていきました。

ダメダメ!消えちゃダメ!

おじさんの3羽の鳥たちが、力いっぱい生き物のしっぽをつかんでみても、生き物はどんどん消えていきます。
生き物は最後におじさんと鳥たちにこう話したそうです。
「またどこかで、子供たちの笑い声をひびかせてほしいなぁ」
それは生き物が、たった一度だけ話した言葉でした。
生き物が完全に消えてしまった時、小さな煙がポンポンっと鳥たちを包みました。


気がついたら3羽の鳥たちは、こんな姿になっていました。
あの生き物の願いが、鳥たちに託されたのかもしれません。

「こりゃまた、不思議なことが起きたなぁ…」
それから3羽は、ぴよぴよ3兄弟と新しく名付けられ、再びおじさんと一緒にいろんな場所に行くことになりました。

そして今日もどこかで子供たちを驚かせては、いろんな人に楽しい思い出を作っているようです。
もしかしたら、どこかで会えるかもしれません。
好物の白もちを持ってくれば、ひっそりやってくるそうです。
